たの葉の物思い 

本を読んで、たの葉が思ったことです、ときどき、それ以外

講談社学術文庫「大清帝国」

著・増井経夫

 著者のかたが「はじめに」で「歯切れが悪い」と書かれているけれど、やわらかい語り口。俯瞰して、中立的に。複数の見方や解釈を提示してくれる。その配慮その方針から、かえって、著者のかたの主観を感じる。近く感じる。

 「おしよせてくる近代の洪水に溺れたものがつかんだ藁、それが中華思想であった」。いろいろな国の歴史について読んで、選民意識ってどこにでもあるなあと思っていた。

 蒙古と満州の違い、「蒙古の自信はイスラムとの交流による広い視野と、異質のものを多く席巻した事実によってささえられていた」、なるほど。

  文章が、表現が、面白いなあ。「この統治をしない人が、どう統治してほしいかというのではなく、どう統治すべきだという理想を述べる伝統は、中国では孔子以来の癖で、この形式以外では思想らしいものさえ形成されなかった」「啓蒙思想が啓蒙を果たさない中国の土壌には、近代の種子は芽ぶかず、ただ一陣の香気となって吹きすぎたようである」「針を持った蜂よりも無害の蝶のほうを選ぶべきだと」

 インド・ムガル帝国と日本・江戸幕府が、対比されて説明される箇所が興味深い。中国にも被差別民っていたのか。

 もっと、皇帝と宮廷と王朝と政府の話になると思っていた。皇帝と政府以外のものも、権力以外の要素も、社会と歴史を作り、動かしているのだと、とても感じた。

  アヘン戦争について書かれたものを読むと、東アジア人の血が騒ぐのか、辛くなるし、イギリスが憎くなるのだが。この本の第四章、読んでいても、あれ、そんなに辛くない?…。清朝、懲りないというかマイペースというか。そうか、中国的な合理性か…。イギリス、後見役として、てこずらされるのか…。

 確かに公式論ではない。第七章の二「清代の思想」、儒学に関する説明が新鮮。第八章清代の文芸、読んでいて、楽しかった。硯などの文房具が、美術品骨董品という範疇に入っていることを、すてきなことだと常々思っていたのだが。文房具が四宝に数えられたのは、官僚文化の一つの終点だって。なんか切ない…。学術のありようからも文芸の世界からも、清が、中国が、その特色と複雑と矛盾が、見える。

 終章、概括。内容はもちろん、やはり、文章が表現が、言葉の選び方組み立て方が、印象に残った。